あなたは、ATR(Average True Range)というインジケーターについて知っていますか?
ATRは、有名なボリンジャーバンドと同じく、「過去一定期間のデータをもとに」「現在想定されるボラティリティ」を算出するインジケーターです。
ボラティリティよりも直観的でないパラメータであるが故に、チャートに表示してもイマイチ見方、使い方が分からなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、そんなATRの計算式を、ボリンジャーバンドとの違いも含め例を交えてご説明します。
Average True Rangeについて
ATRの目的は、すばり一期間中の”最も大きい値幅”が平均的にどのくらいかを数値化することです。
例えば、今現在ドル円日足のATR(設定期間14)が1.0と表示されていた場合、「ここ14日間の一日の”最も大きい値幅”が1.0円/ドルである」ということを示しています。
実際にチャートを見て確認してみましょう。以下はATRを適用した直近ドル円日足チャート(Trading View由来)です。

例えば、2022年年初のATRは0.6くらい、6月現在のATRは1.2くらいですね。
1日の最大値幅が年初と6月で倍程度違うのが分かりますね。
Average True Rangeの計算式
ATRは、以下の流れで求められます。
- ある期間の最大値幅(=True Range)を求める
- True Rangeを設定期間分集めて、指数平滑的に平均化(=EMA化)する
そしてTrue Rangeはある期間の値幅につき、以下3パターンのうち、最も大きい値のことです。
- 当日の高値と前日の終値の差→当日の高値-前日の終値
- 前日の終値と当日の安値の差→前日終値-当日安値
- 当日の高値と当日の安値の差→当日の高値-当日の安値
ともかく、True Rangeはローソク足でみて、最も高値にある値ー最も安値にある値(ヒゲ先も含めて)の差だと理解すれば十分です。
Average True Rangeの計算例(ボリンジャーバンドとの比較)
それでは実際にAverage True Rangeの計算例をボリンジャーバンドと並行して見てみましょう。
なお、ボリンジャーバンドの計算式については、以前記事で紹介しています。
始値、高値、安値、終値の設定
まず前提として、ドル円14日分値動きを仮定したデータセットを準備しました。

14日間で陽線~大陰線を3セット程度繰り返し、それぞれの値動きは始値に対して上記の通りと仮定します。
上がって、ピンバー、下がって、ピンバーの波を繰り返している家庭です。
図中緑のセルはある期間での最高値、赤のセルは最低値です。True Rangeはこの差を指します。
True Range計算~ATR算出

True Range及びATRについては上記のように計算されます。
今回データセットからはTrue Rangeが大体毎日2~3円であり、ATRとして計算すると2.8円となることが分かります。
この場合、ボラティリティ=ATR=2.8円となり、これは「1日の平均的値幅」という意味でのボラティリティです。
ボリンジャーバンド計算

一方、ボリンジャーバンド計算(終値ベースで計算)を行うと、上記の通り1標準偏差=1.55円となります。
この場合のボラティリティ=1標準偏差=1.55円となり、「データが標準正規分布に従う場合、+/-1標準偏差に68.4%のデータが収まる」、という意味のボラティリティとなります。
上記の一日の最大値幅とは全然異なりますね。
仮に2標準偏差としてみると、2標準偏差=3.10円となり、ATRに近い値になりますが本質的に関係のない数値であることに注意が必要です。
まとめ
ATRはボリンジャーバンド同様、ボラティリティを示す指標です。
「一日あたりどのくらい値動きがあるのか」について述べたい場合、ボリンジャーバンドよりも適切な指標となります。
状況に応じて、ボラティリティの指す意味に注意し、ATRとボリンジャーバンドを使い分けましょう。
参考:ATR使用にあたっての留意点
本記事では、ATRは「ボラティリティ」チェックのためのインジケーターとして扱っています。
一方で、一般的にATRの使用方法として、「ATRが拡大傾向にある=ボラティリティ拡大傾向にあるとみてトレンドに順張りするサインと見る」と解説されることがあります。
しかし下図のように、「ATRが縮小傾向にある⇔トレンドが形成されている」ようなパターンは多々あります。

なぜこうなるのか、というと、理由の一つは時間足の長さです。
一般的にいう、ATRとトレンドの関係が見られる場合というのは長期間の時間足(恐らくは日足以上)のことであって、一方で上図は15分足とかなり短期間の時間足を参照しています。
長期間の時間足は、1月、1年レベルでの相場のトレード傾向の変化を反映しているため、「値幅の拡大」がそのまま「相場の過熱」、ひいては「長期間のトレンドの成長」に結び付きやすくなると考えられます。
しかし、日足レベルでダウ理論等でなくわざわざATRを使いトレンドを判断する必要が薄い上に、15分等の短期間では運用に適しないとなれば、筆者としてはATRそのものを「トレンド順張りインジケーター」として使用するべきでないと考えています。
参考2:それでもATRをトレンド順張りに使うなら
上記に挙げた留意点を踏まえて、なおATRをトレンド順張りに用いるのであれば工夫が必要です。
ATRをオシレーター系インジケーターとして考えた場合使いづらい点があります。
それはつまり「拡大・縮小傾向を見るためのツールだが、その拡大・収縮傾向が一目で分かりにくい」という点です。
RSIのように70、30で買われすぎ売られすぎ、という閾値設定のあるオシレーターなら、数値を基準にして見れば分かりやすいです。
一方ATRは閾値もなく、前の時間と比べて高い低いを見ることしか出来ません。ここに解釈のブレが生まれますし、そもそも目測のブレも生じます。
ここで工夫の一つとして、「ATR」をそのまま表示するのではなく、「ATRのモメンタム」を表示することを提案します。
モメンタムとは本来「当日終値 ー n日前の終値」を表示するインジケーターです。n日前に比べて値上がり(値下がり)が続いていれば値は正(負)となります。
このモメンタムの仕組みを、ATR(=ボラティリティを平均化したインジケーター)に適用することで、n日前と比べてボラティリティが拡大傾向にあるかどうかをブレなくチャート上に表示できます。
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