あなたは、ボリンジャーバンドの設定期間についてどのような考えを持っていますか?
ボリンジャーバンドについて、標準偏差σ(基本は1~3σの間)の設定に気をとられがちですが、もう一つの重要なパラメータとして、「期間」があります。
標準的な状態では、期間は「20」に設定されています。
こちらの標準設定、あくまでボリンジャーバンドを統計的指標として使うのであれば、期間(サンプリングデータ数)が不足しているのではないかと思います。
標準設定でボリンジャーバンドを使っている方で、「2σバンド以内に95%データが収まるはず(と思ってトレードをしている)のに、いつもあっさりと価格がバンドを超えて困っている」という方は、以下を読んで頂ければ解決するかもしれません。
ボリンジャーバンドの設定方法について
前段として、まずボリンジャーバンドの設定方法について確認しましょう。(Trading Viewの場合)

ボリンジャーバンド(BB)が追加されている場合、上図赤丸で囲んだように、チャート左上にインジケーターが表示されています。
期間調整の手順としては、以下の通りです。
- インジケーター「BB」の歯車ボタン(上図赤丸)を押下
- 中央ウインドウ「パラメータ」の中の、「期間」を変更(初期状態20)
ボリンジャーバンドの設定期間について
それでは、改めて本題です。
ボリンジャーバンドの設定期間について考えてみましょう。そのためには、「ボリンジャーバンドの目的」と統計的手法である「t分布」について把握する必要があります。
ボリンジャーバンドの目的とポイント
ボリンジャーバンドの目的は、当ブログでも度々触れている通り、
- 価格データが標準正規分布に従うことを前提として、
- 標準偏差σ区間すなわち信頼区間をバンドで図示する
ことにあります。
そして重要なポイントとして、「設定期間内の標準偏差」が「分析する市場の標準偏差」を出来るだけ表していないと意味がありません。
例えば以下のようなケースで考えてみましょう。
- 「ドル円全体」の1σは1円/ドルである(と仮定します)
- ボリンジャーバンドを期間20で設定
- 過去20期間中、一時的に値動きが激しいデータが混ざっており、1σは3円/ドルとなった
- その後ボリンジャーバンドを期間100で再設定
- 再設定により、1σは1.5円/ドルとなった
イメージの一助として、「市場」の標準偏差(上では「ドル円全体」の標準偏差)は、いわゆる通貨ペアの値動きの「クセ」と呼ばれているものだと読み替えてください。
「値動きのクセ」=「ボラティリティ」が数値で把握出来たらトレードが楽になります。
それは例えば、「ボラティリティ以上のストップロスを置くことで、根拠を持って損切の回数を減らせる」ということであったり、「ボラティリティ以内に指値を置くことで、手堅く確実な利確目標を設定できる」ということであったりします。
ボリンジャーバンドの目的は、まさしく設定期間分のデータをサンプリングすることで「市場」の標準偏差を推定すること=「ボラティリティを把握すること」にあります。メリットだらけの「ボラティリティ」を定量的に推定し、可視化する手段の一つ、ということです。
上記では、「ドル円全体」の標準偏差が分かっている、と仮定しました。しかし実際には断定することは不可能です。全体の標準偏差と言っても、単純にドル円の最古のデータ~最新のデータを集めて標準偏差を測ればいいわけではありません。データを構成している取引の背景にある、プレイヤーの属性等々は変化しているからです。
そこでボリンジャーバンドは設定期間=最近の一定期間のデータから、(最近の)「ドル円全体」の標準偏差を推定する、という仕組みになっています。
しかし一方で、サンプリングデータが少ないほど異常値の影響を大きく反映し、標準偏差の推定値が実際の値から乖離してしまいます。
例えば、ボリンジャーバンドの設定期間が1,3,5と極端に短い場合、直観的に役に立たない気がしますよね。それはつまり値動きデータにちょこちょこ混じる異常値の影響が大きく出すぎてしまうからなのです。
従って、ボリンジャーバンドで「(最近の)ドル円全体」の標準偏差を推定したいのであれば、それは十分なサンプリングデータ数が必要となるということなのです。(上記ケースでは期間を増やすことで、ボリンジャーバンドの標準偏差推定値が「ドル円全体」の標準偏差に近づいている、ということを例示しています。)
t分布と自由度
上述した、一定期間のデータをサンプリングすることによって、母集団の標準偏差を推定する方法は、統計的手法で「t分布」と呼ばれるものです。
t分布についてざっくりいうと、
全体母集団の分散(標準偏差の2乗)が分からないときに、サンプリングデータを集め、推定の分散(不偏分散)を算出する手法です。
この際、サンプリングデータ数を「自由度」を呼び、自由度が大きいほど、t分布は標準正規分布に近づくとされます。
では、自由度はどのくらい大きければ(=どのくらいサンプリングデータ数を集めれば)標準正規分布に等しくなるのでしょうか。
統計WEB様の記事によれば、一般的な統計テキスト等において、自由度≧30以上でt分布はほぼ標準正規分布に近づくとされているようです。
証券アナリスト試験問題においては、前提を自由度=60とする例が多いのですが、実際には自由度はもっと低くても十分ということですね。
ここで標準正規分布に近づける、ということとボリンジャーバンドがどういう意味を持つか確認しましょう。
ボリンジャーバンドの各バンド内へのデータの収まり率(2σ内=95.44%…)は「市場データが標準正規分布に従っている」前提でしたね。
つまり、「①ボリンジャーバンドは設定期間分データをサンプリングしている(t分布的推定)」➡「②サンプリングデータが多いほどt分布は標準正規分布に近づく」➡「③標準正規分布に等しくなるくらいデータを集めないとボリンジャーバンドの信頼性は担保されない」という理屈が存在します。
従って、明確な根拠のないように思えるボリンジャーバンドの設定期間について、
- あまりに短い設定期間は「t分布≠標準正規分布」となり、ボリンジャーバンドの信頼性を下げる
- (あまりに長い設定期間は背景等異なり、現在の市場の標準偏差を表していると言えない)
- 「t分布≒標準正規分布」となる30以上の設定期間であれば、ボリンジャーバンドの信頼性は高い
ということが理論的に確認できました。
まとめ
ボリンジャーバンドの標準偏差を、t分布の考え方に基づき「市場」の標準偏差推定値として用いたいのであれば、
- ボリンジャーバンドの期間を標準設定の20から、30以上に変更
してみてはいかがでしょうか。
(参考)
本記事で用いたチャートについて、ボリンジャーバンドの期間を20から30に変更した例を貼ります。
全体的にバンドのくびれが小さくなり、ダマシの数が減っているように見えます。
(期間20)

(期間30)

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