あなたはボリンジャーバンドを使ったトレード手法について、どのような考え方を持っていますか?
ボリンジャーバンドの考案者、ジョン・ボリンジャー氏は、このインジケーターを本来「順張りに用いるもの」として考案したとされています(出典不明…)。
しかし、このインジケーターは一般的には、いくつかの「勘違い」によって「逆張りに用いるもの」として扱われています。
本記事はその「勘違い」を明らかにし、何故ボリンジャーバンド逆張り手法が間違っているのかを説明します。
(※本記事主張のため、やや大袈裟に書いていますがご了承ください。本記事内容につき異論反論御座いましたら絶賛コメント募集しております。)
「95%のデータが2σ内に収まる」のは、データの集合が標準正規分布に従うことが前提
ボリンジャーバンドを使った逆張り手法の根拠はつまり、「バンド(=基準SMAの値+/-σ(=標準偏差)xパラメータ)より内側に〇%のデータが収まる」から、すなわち「バンドに現在の市場価格が近付けば、反発して戻ってくる可能性が高いから」、というところにあります。
ボリンジャーバンドの標準設定として「2σ」が設定されているものが多い(1σでなく)のですが、これは「データが標準正規分布に従うと仮定できる場合、95.44%のデータは2σ内に収まる」こと、この95.44%のキャッチ―さがウケているというところと推測します。
しかし、ここに既に2つの勘違いがあります。
「終値」は標準正規分布に従う類のデータという勘違い【その1】
1つ目の勘違いとして、各時点の終値は標準正規分布に従っていると認識されていることを挙げましょう。
そもそも、まず標準正規分布に従っている状態とはどのような状態でしょうか。
例えば、「ある学校の生徒の身長」であったり、「同学校の生徒のテストの成績」といったデータです。
これはつまり、「データそれぞれが独立しており、データ間の相関関係が無い」状態、例えばAさんとBさんの身長に相関関係などない、というようなことです。
では「終値」というデータの集合に戻って考えてみましょう。これらデータはそれぞれ独立事象でしょうか?
独立事象ではないですよね。少なくとも常に独立事象であるとは誰も思わないでしょう。
「前の終値に関係したプレイヤーの動き」があるからこそ、トレンド発生、ブレイクアウト手法などがあるわけであり、終値同士が常に独立事象であることはあり得ないわけです。
この時点でボリンジャーバンドの前提が1つ崩れたことになります(=2σ内に95.44%終値が収まるわけではない)。
2σバンド上で95%反発⇒収束する、という勘違い【その2】
2つ目の勘違いとして、「バンド上で反発し、終値がバンドに収まったら逆張りエントリー」という一般的な逆張りトレード手法、すなわち「バンド上で反発したら95%の確率で戻ってくる(2σバンドの場合)」ことを挙げましょう。
これは単純に、統計に関する不十分な理解によるものです。
あくまで「終値の95%は2σバンド内に収まる」*と言っているだけであり、「バンド上で反発したら95%戻ってくる」わけではありません。(基本的にみんなここを勘違いしています)
バンド上に到達した終値が次の瞬間どう推移するかについて、バンドの外にいくか中にいくかはいわば50:50です。(上述の標準正規分布の前提に従えば、です)
仮にバンド内に戻って来たとして、そこから値動きが平均値(SMA)まで収束するか、と言えば答えはNOです。収束するという仮説の時点で、終値データ同士に相関関係(この場合は負の相関)を認めたことになります。
したがって、バンド上で逆張り、という手法については、どう理屈立てても標準正規分布の考え方を理解していないだけ、という結論になります。
*前記事にて実例を用いたボリンジャーバンドの計算プロセスを確認しています。以下ご参照下さい。
ボリンジャー氏は何を考えて順張りと言ったか
ここまででボリンジャーバンドを使った逆張り手法が間違っていることの説明を行いました。
しかし、一方で順張り手法として用いられることが否定されたわけではないと考えています。
では、一体どのような理屈付けでボリンジャーバンドを順張り手法に用いれば良いのでしょうか。
以下、私見となります。(ボリンジャー氏の真意は不明…)
ボリンジャーバンド2σを超える事態は異常⇒トレンド発生とみる
ボリンジャーバンド2σを終値が超える状態というのは、95.44%を超えた(つまり4.56%)状態であるというのは、上述標準正規分布の前提に沿った考え方です。
この4.56%以内の限定的な事象が表れているということは、「単純に極小確率の事象が発生した」or「標準正規分布の前提に依らない、終値ごとの強い相関関係の発生=トレンドが発生した」といういずれかのパターンが発生していると見ることが出来ます。
したがって、ボリンジャーバンド2σを超えた場合、「トレンドが発生した」とみなし順張りを仕掛けていくわけです。(単純な極小確率事象の発生=ダマシ、としても発生確率が低いため全体で見た期待値は高い)
実際にトレードに用いる際には、バンドを超えるまでの終値間相関関係を見るとこの理屈付けを一層強化出来るでしょう。
しかし現実は…(おまけ)
ここまでボリンジャーバンドの逆張り手法の不正確さ及び順張り手法の根拠について説明を行いました。
しかし、これらは残念ながら理屈でしかないと言えます。
なぜなら、現実にチャート上で「バンド2σまで行き、その後反発⇒SMA収束」という流れは頻出するからです。(だからみんな信じるともいえる)
これは、間違った理屈・手法が周知・一般化され、非合理的なトレードを仕掛けるプレイヤー(ノイズトレーダー)がメジャーになっている状況を表しているといえるでしょう。
単純に正しい理屈だけでは勝てない、これがトレードの難しいところであり、面白いところですね。
ドル円日足データから見る2σ収まり度(おまけ2)
以下前提を設け、実際2σ内にどれだけデータが収まっているか確認してみました。
- 通貨ペア:ドル円
- 時間足:1日レベルのボラティリティを計測することとし、日足チャートを用いる
- 参照期間:2022年12月31日から遡って36か月(3年分)
- データ抽出タイミング:毎営業日終値
- インジケーター設定:ボリンジャーバンドを「ベース20SMA、2標準偏差」として設定
結果は以下の通り。
3年間のデータ数(A) | うち、2σ内に終値が収まった数(B) | B÷A |
778 | 688 | 88.43% |
実際に95%の値が収まっているわけではなく、実に11%ほどのデータは2σより外にはみ出ていたことになります。
これはまさに、単純な標準正規分布が成立していないという証拠でしょう。
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