今回は、日本の電力市場制度の一つである容量市場についてポイントごとに整理します。
※この分野に関しての初学者のメモとなります。制度解釈に誤りがある可能性につき予めご了承ください。
容量市場とは
各ポイントについて述べる前に、そもそも容量市場とは何か簡単に整理します。
容量市場は、電力需給バランスが急激に変動するピーク時に発電能力を確保するための市場です。
ピーク時には電力供給に対し需要が急増するため、電力会社は追加の発電能力を確保する必要があります(電力の仕組み上、不足しても問題ない、というわけには行かないのでなんとか供給能力を増やす必要があるのです)。
容量市場では、電力会社が発電能力を確保するために入札を行います。結果最も低い価格で発電能力を提供する事業者との間で契約を結びます。
入札される容量は、いつでも柔軟に発電、停止出来るものが良く、主に火力発電所が入札対象となります。
容量市場では、需要予測が不確定な短期的将来(一般的に数か月から一年程度とされる)のために発電能力を確保することが目的ですから、短期的な契約になることが一般的です(ベースロード市場と対照的)。
容量市場の必要性について
では、具体的にどのような時に容量市場が必要となるのでしょうか。
例として適格かつイメージしやすいのは太陽光発電の容量が他地域よりも多い九州エリアでしょう。
九州地域は太陽光発電の普及率が高く太陽光発電所が多く立地しています。
太陽光発電は天候に左右されるため、晴天時には多量の発電が可能ですが、雨天や曇天時には発電量が減少します。太陽光発電の容量が増えてきた結果、通常晴れの天候をベースケースとして需給バランスが組まれるわけですから、こうした悪天候時太陽光発電以外の一般の火力発電所容量だけですと安定的な電力供給を行うことができません。
このため、太陽光発電所を含む再生可能エネルギー発電所が増加するにつれて、需要と供給のバランスを取るための調整機能が必要とされるようになるのです。
容量市場は、このような調整機能を提供することで、再生可能エネルギー発電所の需要と供給のバランスを取り、電力市場全体の安定を促進する役割を果たしています。特に、九州地域のように太陽光発電所が多い地域では、需要と供給のバランスを取るために容量市場の重要性が高まっています。
容量市場の買い手のメリット
さて、容量市場が電力安定性自体に貢献する一方で、買い手売り手のメリットに分けても考えてみましょう。
容量市場の買い手のメリットは以下のようになります。
- 電力需要が予想を上回った場合でも、必要な容量を確保することができる。➡需給バランスが改善され、ブラックアウトや需要喚起による電力価格高騰を防ぐことができる。
- 容量市場での価格は、一定期間固定されるため、需要予測が難しい時期でも予算の立てやすさがある。
急遽電力供給能力が不足した時、容量市場で発電容量を抑えておかないと買い手はスポット電力市場から電力を急遽調達しなくてはなりません。調整市場の無い世界では、当然買い手はスポット市場に集中し、価格も高騰しやすくなります。(近年特に夏場冬場のピーク帯電力価格が暴騰していることが問題視されています。)
足りない分をスポット市場で抑えないといけなくなった場合でも、調整機能を活用している結果、スポット調達価格も安価に抑えられる、ということですね。
また容量市場での調達価格自体も、固定価格で将来一定期間を抑える価格変動リスクヘッジ効果があり、買い手企業にとって会計上収支見通しを立てやすいというメリットがあります。
容量市場の売り手のメリット
容量市場における売り手のメリットは以下のようになります。
- 売電量や価格に左右されず一定の収益が確保できるため、経営の安定性が向上する。➡発電所設備に関する投融資判断も立てやすくなる
- 需要側からの需要予測を元に、稼働スケジュールを調整することで、電力供給の需要と供給をバランス良く調整できる。
- 電力需要がピークを迎える時間帯においても、需要側からの要望に応じて、発電量を増やすことができるため、需要家からの信頼を高められる。
買い手が収支見通しを立てやすいことの裏返しで、当然売り手の発電所側も収益を立てやすくなる効果があります。これはすなわち将来の投融資判断の根拠になるということです。発電所設備は長期間の投資が前提となるため、高いボラティリティのスポット市場での売電に本来なじむ性質ではありません。収益見通しを立てやすくなることで、適切な設備改廃の判断が立てられることになり、将来的にも効率的に容量確保することが出来ます。
また、買い手の求めに応じ容量を提供できる=ピーク時の混乱が少ない、ということも売り手にとってメリットでしょう。市場原理を働かせる必要性はありつつも、それ以前に電力供給事業は信頼性が重要であり、それはBtoBの買い手売り手間関係においても同様です。
極短期的なスポット売りでなく、定期的な供給を行うことで売り手企業は買い手の信頼感を獲得できる=企業評価の向上につながる、という側面もメリットとして存在します。
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