小難しくて情報過多気味な財務諸表を出来るだけオモシロく分析しようという取り組み。
今回は「初音ミクの年収」について調べてみようと思います。
今や一大であるコンテンツ「ボカロ」の主、初音ミクは果たして年間どれくらい稼いでいるのでしょうか。
今回の記事のポイントは大まかに以下の通りです。
「問いに対する緻密な答えを出す」というよりは、「身近な疑問から財務データを調べて、なんらか面白いデータを引き出す」ことが今回記事の目的であるため、細かい部分は大目に見るつもりでお読みください。
初音ミクの年収は?

前提である「初音ミクの年収」について、データを集める前に定義を簡単に整理しましょう。
「年収」の定義
「初音ミクの年収」とはすなわち、「初音ミクに係る企業活動から得られる営業利益」です。
営業利益は、売上 x 営業利益率 と考えましょう。
営業利益を考えるにあたり、まずは売上データを収集・仮定する必要があります。
「売上」の分類
初音ミクに係る企業活動の売上とは何でしょうか。
大分類から始めると、まずは何といっても「①ソフトウェア本体の売上」があり、「②それ以外の関連コンテンツの売上」がある、というように二分出来るでしょう。
ソフトウェア自体の売上について
①について、残念ながら先に結論を行ってしまうと、初音ミクのソフトウェアを販売しているクリプトン・フューチャー・メディア㈱は非上場の株式会社であり(出典)財務諸表が公開されていないため調査不可能です。企業分析においてはこのような障壁にもよく突き当たります。
関連コンテンツの売上について

一方、②関連コンテンツの売上はどうでしょうか。ゲーム、音楽(CD、配信)、グッズ…とコンテンツは多岐に渡るため全てを把握することは困難です。
今回は、企業活動の分析という観点から代表例について具体的に見ていくことにしましょう。
初音ミク関連のコンテンツで、2022年現在最も代表的なものとしては、「プロジェクト世界 カラフルステージ! feat.初音ミク」(セガとColorful Paletteの協業により2020年9月30日サービス開始したゲーム用アプリ、つまりソーシャルゲーム/以下、プロセカ)が挙げられます。
恐らく「プロセカ」が、初音ミク関連コンテンツで最も稼いでいる代表例である、と仮定してその売上と営業利益を見ていくことにします。「初音ミクの年収」は少なくともこれ以上、ということになります。
プロセカの売上、営業利益を調べるために
次の段としてプロセカの売上、営業利益を調べるためにはどうすれば良いでしょうか。
具体的には企業の財務関連資料を読み解く必要がありそうです。
以下ではプロセカの運営企業であるセガ(実際には親会社であるセガサミーホールディングス㈱の連結報告/以下セガサミー)を見ていくことにします。
セガサミーの2022年3月期決算短信を見る
まず思いつく財務関連資料として、決算短信について見ていきましょう。

冒頭、連結経営成績からはグループ全体の売上高と営業利益が分かります。
が…これでは情報が粗すぎてどこに個別コンテンツの情報があるのか分かりません。
そのまま決算短信を読み進めていくと、「セグメント情報」についての記載がありました。

ここでは全体の企業業績を、3つの事業区分(セグメント)単位、すなわち「エンタテインメントコンテンツ事業」「遊技場事業」「リゾート事業」で分けて個別に報告するようですね。
このうちエンタテインメントコンテンツ事業には「F2P」というカテゴリが含まれています。
このF2P、聞きなれない単語ですが、要は基本無料のオンラインゲーム…すなわち現在一般的なスマホゲーム、ソーシャルゲームのことです。
エンタテインメントコンテンツ事業を掘り下げていけば何か分かりそうです。

さらに決算短信には、セグメントごとの売上計と利益が掲載されていました。
しかしこれでもまだ、プロセカの売上と営業利益には到達出来ません…
ここで見る資料を変えてみることにしました。
具体的には「決算用プレゼン資料」と「決算補足データ」です。
セガサミーの決算用プレゼン資料と決算補足データを見る
まず決算用プレゼン資料に目を通して思ったのは、何より分かりやすいということ。
数値はグラフ化され、前期比対比も分かりやすい。初めから調べる内容が決まっていればこうしたプレゼン資料に目を通すのが正解ですね。

プレゼン資料中には上図のように、エンタテインメントコンテンツ事業セグメントのさらに細かなブレイクダウンがありました。簡単に言えば家庭用ゲーム(コンシューマー)とAM(アミューズメント、ゲームセンターのこと)を分けているようです。
そして…

上図のように、コンシューマーの中のF2P売上高推移の資料まで見つけることが出来ました。
プロセカリリース時点も具体的に明記されており、いよいよ答えに近づいてきましたね!
ただ、グラフの問題点として「具体的な数値が分からない」ということもあり、最後に「決算補足データ集」で具体的な数値を探すことにしました。

最終的な答えが、上図補足データ資料に記載されています。
コンシューマーのうち、F2P売上高について、各年度リリースアプリごとの売上高まで分けて記載がされています。
プロセカは2020/9リリースですから「2021/3リリース」期に含まれるとみてよいでしょう。
プロセカリリース前後で売上は倍と少し増大していることから逆算して、プロセカの「2021/3リリース」期に占める売上は60%と仮定することにしましょう。
F2P分野中の「2021/3リリース」売上比率がだいだい40%ですから、プロセカのF2Pに占める売上比率は24%ということになります。

最終的に全体売上高からブレイクダウンしていった表が上図になります。(筆者まとめ)
カッコ内一部類推している点もありますが、ざっくり言ってプロセカで初音ミクは「24億円」毎年稼いでいることになります。
実際には、他コンテンツの売上も膨大でしょうからこれは一部ですが、「初音ミクの年収は少なくとも24億円以上」であることが分かりましたね。
(参考:今回の財務分析的な学び)

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