今回は、長期保有前提で高配当銘柄に投資する場合、シャープレシオ分析すべきであることについて説明します。
前回は高配当戦略に適した銘柄として、ブルーチップ銘柄について紹介しました。
これはつまるところ、配当に対して事業リスクの低い企業群に投資すべきであるということでした。
シャープレシオによる分析とは、つまり簡単に言えば企業がブルーチップであるかどうかを判別し、またその程度を相対評価することを可能にする分析方法です。
シャープレシオの計算式
まずは、シャープレシオの基本情報について整理します。
シャープレシオ(Sharpe Ratio)は、投資家がリスクに対して得られるリターンの割合を評価する指標の一つです。以下がシャープレシオの計算式です。
シャープレシオ = (期待リターン – 無リスク金利)/ 資産の標準偏差
ここで、期待リターンは資産に投資することで得られる収益の期待値、無リスク金利はリスクがないと見なされる資産(例えば、米国国債など)から得られる金利を意味します。
この計算式はつまり、資本家が受け取るリターンに対して、リスクを取ることがどの程度適切であるかを評価することができます。リターンが大きくなるほど、またリスクが小さくなるほどシャープレシオは大きくなります。一般的には、シャープレシオが1以上であれば、その投資は良いものであると考えられます。
配当をリターンとするシャープレシオの意味
上記でいう期待リターンは、実際にはあらゆるリターンを合計した期待リターンです。
株価自体の変動(値上がり)による評価差益もこの期待リターンに含まれます。
今回はこの期待リターンを配当に限定して考えます。(変則シャープレシオです。)
高配当銘柄長期保有戦略においては、基本売買を行わないので売買によって現実化する評価差益を期待リターンに含めるべきではないからです。
なお、リスク調整しない限り、単に株価に対して高い比率で配当する会社が良い評価となります。ここまでの分析であれば、「高配当率ランキング」としてネットにたくさん情報が転がっていますし、一度は目にしたことがあるかと思います。
しかし、実際にはリスクの大きい企業が株価下落防止のために高い配当を(短期的に)実施しているケースもあるでしょうから、リスク調整が大事になるということなのです。
具体例として考えてみましょう。
例えば、2つの企業A社とB社を比較する場合、A社の株価が1年間で5%上昇し、配当利回りが2%であったとします。一方、B社の株価が1年間で3%上昇し、配当利回りが4%であったとします。単純なリターンではA社の方が上昇率が高いように見えますが、価格変動=リスクであると考えることも出来ます。
配当のみのシャープレシオを計算してみる(なお説明上簡単化のため、価格変動=そのままリスクと見ます。)と、この場合、A社のシャープレシオは2%÷5%=0.4であり、B社のシャープレシオは4%÷3%=1.333であるため、B社の方が高配当戦略に向いていると判断することができます。
シャープレシオ分析によるメリット
シャープレシオ分析により、具体的には以下のようなメリットが得られます。
業界ごとの配当率、リスク率を調整したうえで評価できる
業界ごとに稼ぐビジネスモデルが異なり、従ってリスクの度合いは異なります。
シャープレシオを用いることで、業界ごとのリスク差を調整することができます。
例えば、自動車メーカーA社と電力会社B社を比較した場合、自動車メーカーの方が一般的にリスクが高いとされます。高配当銘柄狙いであって、リスク回避的な投資家であれば、B社を選んだ方が直観的に良いと思いがちです。
しかし、リスクを調整したうえでもA社のシャープレシオが0.3であり、B社のシャープレシオが0.1である場合、A社の方が高配当戦略においても適していると判断できるのです。
業界の中でも、より良いパフォーマンスを出している企業が分かる
また、上記の例でいえば、リスクの低いとされる電力業界においても各社でリスクの度合い、配当政策の程度は違うわけで、シャープレシオを使ってこの差を一挙に分析することが可能です。
例えば、リスクは低いが利益、配当性向も低い電力会社X社と、リスクはやや低く、一方配当性向の高い電力会社Y社があれば、Y社のシャープレシオの方が高く出るでしょう。
以上のように、シャープレシオを利用することで、配当をリターンとして調整し、リスクを考慮した収益率を比較することができます。また、業界によるリスクの違いを明確にすることができるため、銘柄選択に役立つ指標として重要です。
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