巨大な設備を抱える重厚長大(重工業、化学等)産業において、特に日本企業の場合PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っていることが多くあります。
PBRが1倍を下回る、ということは企業が保有する資産価値よりも企業価値(株価)が低く見積もられているということです。分かりやすく言えば、その場で解散したほうが株主に還元できる価値が増える、ということでおかしなことのように聞こえます。
何故、PBRが1倍を下回ることがあるのか、今回はその原因として考えられるものを整理しました。
長期投資には高いリスクプレミアムがつきものだから
まず、設備産業のような長期的な投資が必要な産業では将来のキャッシュフローの不確実性が高くなります。
例えばある製品を作る工場を考えた時、工場への投資は十年以上の時間をかけて回収していく必要がありますが、十年以上の期間において、製品を作り続けられないリスク(市場が変わって売れなくくなる、原料が買えなくなって作れなくなる等々)というのは1年、数年という短期間に比べれば大きくなります。つまりは長期投資であるほど、投資の回収が困難になるリスクが高いためその分高い割引率(=期待利益率)が必要になるのです。この点は債券金利におけるリスク・プレミアムの考え方と同じと言えるかもしれません。
このため、投資家は将来のキャッシュフローに対する割引率を高めに設定し現在価値を低く評価します。一方で、設備産業のビジネスモデルは基本的に大量販売し規模の経済を追求することにあります。つまりリスクに見合った高い利益率を乗せるのに適していない、ということです。
この結果、会計上はきちんと利益を出し財務基盤も安定しているのに、取得した純資産価格よりも株式価値=リスク上割安に評価せざるを得ない将来キャッシュフロー合計の割引現在価値が低くなってしまっている、ということが考えられます。
適切な投資先がなく、内部留保が過剰になっている
日本企業においては、健全経営のためとして借金を少なくし利益剰余金を内部留保として現金で保有する(投資に回さない、株主に配当還元もしない)ケースが多く見られます。
これは上記でいうところの長期投資失敗した場合の備え、と考えられなくもないですが、本来であれば企業活動上、現金は出来るだけ新規プロジェクトへの投資に回すか、投資先がないのなら早期に株主に還元することが原則です。
そのため、内部留保が多い企業について市場からは厳しく評価されることに成り、資産の有効活用度合いを低く評価されるなどして株価が下落します。結果として、持てる純資産の合計勝よりも時価総額が低くなるという事態が起きると考えられます。
まとめ
上記のように、重厚長大産業においては、設備への長期投資や安定経営が求められるが故に、逆に純資産の生み出す価値を低く見積もられてしまうという構造が存在すると考えられそうです。
一般的に、PBRが1倍を下回る銘柄をバリュー株として、「本来は純資産価値分時価総額があってもおかしくないはず、株価が市場に低く評価されている」という議論がされることがあります。(かのウォーレン・バフェットがバリュー株に投資する戦略を取っていることからバリュー株議論は人気があります。)
純資産が有効に活用されればバリュー株の株価は上がるだろう、というのがバリュー株議論の要旨なのですが、上記のように業種によってはそもそも純資産倍率なみに時価総額を評価されること自体が難しいものもある、ということは注意が必要です。
バリュー株評価においては、業界平均との比較が重要である、というのはまさにこのような背景があるから、と言えるでしょう。
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