今回のテーマは何かというと、「GDP成長率と通貨強弱の相関関係について」です。
ニュース、新聞など見ていると、各国の四半期、年間GDPの結果や前期比の成長率が大々的に報道されていますよね。
実際、このGDP成長率の影響ってチャートに照らし合わせてみるとどうなのか、しっかりと検証までされた方は少ないのではないでしょうか。
今回は実際にGDP成長率と通貨強弱の相関を調べてみる記事になります。
以下のような流れでまとめていきます。
- そもそもGDPって何?の整理
- FX(通貨の強弱を測るゲーム)においてのGDPの位置づけ
- GDPデータの比較基準、引用元
- 実際のGDPと各通貨ペアトレンドの比較
- GDP成長率と通貨価値変動率の当期の相関について
- 当期GDP成長率とGDP発表後の通貨価値変動率の相関について
- まとめ
そもそもGDPとは
そもそも、GDPとは何か、そこから確認していく必要がありそうです。
GDPとは国内総生産のことで、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値のことです。GDPには日本企業が国外で生産した付加価値は含まれません。GDPは国の経済力の目安としてよく用いられ、日本の名目GDP(2019年)は561兆円(5.15兆ドル、1ドル=109円で計算)と、米国(21.43兆ドル)、中国(14.34兆ドル)に次ぐ世界第3位の経済規模となっています(内閣府資料より)。
このGDPが前年同期や前期と比べてどのくらい増減したのかを見ることで、国内の景気変動や経済成長を推定することができ、それを「%」で示したものを経済成長率といいます。
SMBC日興証券様サイト:https://www.smbcnikko.co.jp/terms/eng/g/E0006.html より
要するに、「一定期間内に国内で生まれた価値の合計」を取りまとめたものがGDPであり、それを前四半期、前年同期などと比較して出る増減率を経済成長率(≒本サイトでは読みやすくするためGDP成長率と呼称致します。)としているわけですね。
例えば日本の経済成長率が上がっていたり、景気が上向きなのであれば日本国内でビジネスのチャンスが増大していくことが予想できます。そうなると円の魅力は上がり、円需要が高まる、そして円の価値が増大すると考えられそうですね。
FX(通貨の強弱を測るゲーム)においてのGDPの位置づけ
ただ、FXと照らし合わせて考える、すなわち2通貨間の強弱関係を考えるにあたっては当然ペアとなる通貨の成長率推移も見なければなりません。
例えばドル円を見るのであれば、日本のGDP成長率だけでなく、アメリカのGDP成長率も見て比較しなくてはいけません。
また、比較に際してはGDP成長総額の差ではなく、GDP成長率の差を指標として用いるのが適切でしょう。※この辺りは私見が混じっております。事実誤認等ありましたら是非コメントを頂きたく。
要するに、日本のGDP成長率>アメリカのGDP成長率であれば、相対的に円価値が増大する⇒円高ドル安になる、という仮説を立てているわけですね。
GDPデータの比較基準、引用元
さて、となるとGDPデータについて、2国間あるいはもっと多くの国家のデータを集め比較する必要があるわけですが比較基準を決めなければいけません。何の話かというと、「四半期か年度か」「速報値か改定値か確定値か」について時期の基準を決めないとブレてしまうということです。
国が一定期間に生み出したモノやサービスの付加価値の合計であるGDP(国内総生産)。内閣府がさまざまな経済データを基に算出し、確定したデータである確報値を毎年12月に発表している。この確報値とは別に、短期的な景気動向を判断するため、内閣府は3か月(=四半期)ごとに速報値と改定値を発表している。1-3月期の速報値であれば、通例、期末の1か月半後の5月半ばに発表され、改定値はさらにその約1か月後に発表されている(正式には、速報値は「第一次速報」、改定値は「第二次速報」と呼ばれている)。
マネーポストWEB様【最新金融用語解説】GDP速報値・改定値・確報値の違い: https://www.moneypost.jp/34478 より
ここを整えないと、データとして比較の意味が無くなってしまいますね。
そこで、今回比較したい「日本、アメリカ、ユーロ圏、イギリス、オーストラリアのGDP成長率」についていずれも四半期ベースの速報値を比較するものとしてYahoo!JAPANファイナンス様のページのデータを基準とすることとしました(以下リンク)。2017年1Q(4-6月)より掲載されており、4年半近い期間の検証が出来ました。※Qは四半期で、会計年度ベース(4月始まり)です。





実際のGDP成長率と各通貨ペアトレンドの比較
かなり前置きが長くなってしまいましたが、比較した結果を発表したいと思います。
まずは2017年1Q-2021年2Qまでの、「対日GDP成長率とクロス円価格変動率」の一覧表です。

なお、グラフにしてみると以下の通りです。
(対日GDP成長率グラフ)

(クロス円の価格変動率グラフ)

上記の一覧表を基準にどのような相関関係があるのか読み解いていきます。
※なお、上記GDP成長率は日本のGDP成長率の差し引きを表示しています。例えば「アメリカ」の列は「アメリカGDP成長率ー日本のGDP成長率」です。
※また各通貨ペアの変動率については、(Q終値-Q始値)÷Q始値という計算式で評価しています。例えば「ドル円」の列の「171Q」行であれば、2017年の6月終値ー4月始値を4月始値で割っています。
GDP成長率と通貨価値変動率の当期の相関について
さて、ではまず横並びで当期のGDP成長率と通貨価値変動率の相関を見ていきましょう。
ここまでの仮説で行けば「当期GDP成長率が日本を上回っていれば、クロス円で見た通貨価値も増大しているはず」ですよね。
…と少し眺めてみて気づくと、実際の結果がそうなっていなさそうなことが分かります。成長率は日本に負けているのに、通貨価値は増大している場合、またはその逆など多くありそうに見えます。
そこで、相関係数の関数(エクセル上でCORREL関数で計算)を用いて相関関係を数値化しました。結果は以下の通り。

なお、相関係数の見方としては、
相関係数をrとして
| r | = 0.7~1 かなり強い相関がある
| r | = 0.4~0.7 やや相関あり
| r | = 0.2~0.4 弱い相関あり
| r | = 0~0.2 ほとんど相関なし
となっています。つまり相関があるのはドル円、豪ドル円だけでそれも「弱い相関」でしかないということが分かります。
ここから導かれる推論としては、以下のようなものが考えられます。
- 当期の実際のGDP成長率と通貨価値変動はリンクしていない=期中の通貨売買は、GDP成長率をほとんど反映していない。
- ということは、期中通貨売買においては、GDP成長率の影響(純粋な経済活動のための通貨需要増大など)はわずかである。
- 期中通貨売買においては、先行指標による思惑買いなどにより価格のゆがみが生じている?
当期GDP成長率とGDP発表後の通貨価値変動率の相関について
ここで、また少し切り口を変えてみてみましょう。GDP成長率は発表されるまでは未知の数値=FXトレーダーは結果を見てから売買している、のだとしたらそこに相関関係はあるのでしょうか。
事前の準備として、GDP速報値がいつ発表されるのかについて仮定をおくことにします。これで「GDP成長率が速報値として発表される○○日後からFXトレーダーが売買している/いないので、GDP成長率と通貨価値変動には相関関係がある/ない」という検証が出来そうです。
以下は、内閣府のGDP統計公表予定です。これによれば、10-12月期の一次速報が2月中旬に出ることとなっています。したがって、「四半期終了45日後」に速報値が出ることと仮定します。
期間 | 公表予定日 | 公表時刻 |
---|---|---|
2021年7-9月期(2次速報) | 2021(令和3)年12月8日(水) | 8時50分 |
2021年10-12月期(1次速報) | 2022(令和4)年2月15日(火) | 8時50分 |
2021年10-12月期(2次速報) | 2022(令和4)年3月9日(水) | 8時50分 |
2022年1-3月期(1次速報) | 土日・祝日を除き、 (1)「鉱工業生産・出荷・在庫指数(速報)」(2022年3月分)の公表日から10日後 (2)「貿易統計(輸出確報)」(2022年3月分)の公表日の10日後 上記(1)~(2)のうち遅い日付までに公表 | 8時50分 |
2022年1-3月期(2次速報) | 2022(令和4)年6月8日(水) | 8時50分 |
その結果、得られた比較表について、以下の通りとなっています。

※価格変動率について、計算式は前述と同じですが、期間のみ「速報値を認識してから1Q分」という風に切り取っています。ドル円20171Qであれば「20171Qから45日経過してから1Q分の価格変動率」を表示しています。
今回については、例えばアメリカの対日前四半期のGDP成長率が伸びていた⇒今後ドル高、円安になるだろう⇒ドル買い円売り、と行動するだろうという仮説が立てられますが、どうでしょうか。
ぱっとみで分かりづらいところですが、再び相関係数を測ると以下の通り。

なんと、強くはないですが逆の相関あり、という結果になりました。(ドル円のみほぼ相関なし)
データの数が少なすぎるので、分析の正確さについては要注意ですが、一応推論をしてみようと思います。この結果から得られる推論は、以下の通りです。
- 速報値が発表された後、ある国家の成長率が良い結果(対日で相対的により成長している)であれば、逆にその国家の通貨を売り、円を買う傾向が見られる。
- 相対的に円に対して成長率がよかったとしても、いずれ収束するとみて逆張りをするプレイヤーが多い?あるいは単に「成長率がいいから買い」で入ってくるプレイヤーに、ダマシを入れるため逆張りするプレイヤーがいる?
まとめ
ざっくりとした結論
長々と書いてきましたが、結論としてまとめると、
「GDP成長率の結果そのものは、ダイレクトにその後の通貨価値変動に影響を及ぼさない」
ということになりそうです。
要は単純な分析ではよくわからなかった、ということなのですが、これは結構大事な気づきです。
仮に、アメリカのGDPの結果が相対的に日本に対して良かったというだけでドル円が上昇する世界だったとしましょう。あなたがそのことを知らなかったらどうでしょうか?簡単に知ることが出来るファンダメンタル要素を見落としているがためにトレードの勝率を引き下げていることになるのではないでしょうか?
単純な分析で勝てる世界ではないことに気づけただけでホッとするということもありそうです。
たとえ話
最後のおまけとして、次につながりそうなたとえ話をしようと思います。
年末に毎年恒例の格付け番組がありますよね。イメージの一助として、あれにたとえてGDPと通貨価値変動を考えてみましょう。経済活動はあの番組みたいにオムニバスではないので、事実と異なる部分もありますが、その辺は大目に見て下さい。
格付け番組 | 経済と為替 | |
問題提起 | AとBの2択問題 (例:2つバイオリンがある⇒ ストラディバリウスはどっち?) | 先行指標をどう見るかという「問題」 (例:東証株価指数を見る⇒ 次期の日本の景気は良くなる?悪くなる?) |
プレイヤーの行動 | 音を聞いてAかBか選ぶ | 先行指標を見て、上昇か下降か予想しトレードする |
プレイヤーの結論 | 予想の段階ではAが多数派に | 予想の結果買いの方が多く、通貨価値上昇 |
結果発表 | 正しい答えはB | 当期のGDP成長率はマイナス |
ここで考えるべきは、「FXトレーダーとして何をやるべきか?」ということです。
「GDP成長率を当てる」ことではなくて、「多数派の意見に乗ってトレードする」ことですよね?
とすれば、我々は何をやればいいのでしょうか。
- GDPではなく、先行指標を重視すること?
- GDPは「結果発表」でしかないと考えて無視すること?
さらに、もう少し深く考えてみましょう。
- 「結果発表」後に、プレイヤーが自分の意見を変えられるとしたら各プレイヤーはどう動く?(⇒経済活動は連続している)
- 具体的に言えば、予想の結果として通貨価値が大きく上昇したが、実際の成長率は大したことがないorマイナスであったら各プレイヤーはどう動く?(逆も然り)
かなり長くなってしまったので、この記事はここまでにしようと思います。
読者の皆様も、面白い気づきがありましたら是非ご意見、コメントを頂けますと嬉しい限りです。
ではまた。
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