今回は、理論株価を算定する方法の一つである配当割引モデルについて、その計算方法を説明するとともに、企業にとっての配当の重要性を説明します。
配当割引モデルについて
配当割引モデルとは、将来の配当収入の合計を現在価値に割り引いて株価を評価する方法です。以下の式で表されます:
株価 = 配当 ÷ (割引率 – 成長率)
ここで、割引率は投資家が要求する収益率であり、成長率は配当の成長率です。
具体例として、以下のような株式があるとします。
・現在の配当: 1株当たり2ドル ・成長率: 5% ・割引率: 10%
この場合、株価は以下のように計算できます。
株価 = 2 ÷ (0.1 – 0.05) = 40ドル
つまり、この株式の1株当たり現在価値は40ドルとなります。
配当割引モデルは、将来の配当を予測し、それらの配当を現在価値に割り引いて、投資家にとって魅力的な株式かどうかを判断するために使用されます。
このモデルでは、株主は配当によってリターンを得るものという前提がおかれています。
配当割引モデルを前提とした企業の行動
配当割引モデルを前提とした場合、企業は具体的に以下のような方法で株主に企業価値を示します。
- 長期的な配当政策の策定 : 配当割引モデルでは、将来の配当を予測して現在価値に割り引くことで、株価を決定します。そのため企業は株主に対し、長期的な配当政策を策定しその配当を継続的に支払うことを重要視します。このことにより株主も将来配当の予見性が高まり。結果として投資家は株式の評価もしやすくなるからです。
- 将来のキャッシュフローの明確化: 配当割引モデルでは、将来の配当だけでなく、将来のフリーキャッシュフローも考慮されます。企業は株主に対し、どの事業でどのように利益を出す見込みかを、すなわち将来のキャッシュフローを明確にし、投資家にとって将来の株式の評価がしやすくなるようにするのです。
- 財務情報の透明性の確保:また、企業は財務情報を透明かつ正確に株主に提供することが重要です。株主は将来の配当やキャッシュフローを評価するために企業の財務状況を分析するため、企業もただ配当を払えばいい、というものではなくきちんと企業活動の結果利益をあげ、それを株主に配当しているという裏付けを示すことが重要です。
- 持続可能な成長戦略の提示:また、中長期的な企業の成長戦略をいかに具体的に分かりやすく株主に示すかも重要となってくるでしょう。安定的にビジネスを継続し配当を払うことは簡単でなく、現時点で存在しない代替品、サービスが生まれ将来今の地位を失うリスクが存在します。企業は株主に対し納得感のある持続可能な成長戦略を提示し、その戦略に基づいて将来の成長を予測可能にすることが重要です。
以上のように、企業は株主に対し長期的な配当政策や将来のキャッシュフロー、財務情報の透明性、持続可能な成長戦略など情報を総合的に示しているのです。
単に配当を払えばいい、というものでないのがこの評価モデル、配当という仕組み自体の奥深いところですね。
シグナリングについて
配当額そのものを公表することもそうですが、財務情報を適切に開示し、将来企業として何をしようとしているかを適切に株主に開示することも含めこうした行動はシグナリングと呼ばれます。
シグナリングとは、企業が自身の情報を、市場参加者に対して送信することで市場の信頼性を高めるための手法です。企業内部の情報とは、基本的に株主がアクセスしえないブラックボックスの情報です。株主は企業外部から、市場を通じて企業の価値を査定するわけですから、株主のためにもまた市場のためにも適切な情報開示が必要となるのです。
配当割引モデルを前提とする場合は、投資家は企業の情報に基づいて将来の配当収益を予測し、株価を決定します。
企業が配当政策だけでなく適切な情報を提供することで投資家に対して自社の価値を示し、株式の評価を高めることができます。また、投資家に対して自社の情報を積極的に提供することで、企業自体の信頼性や市場評価を高め、より多くの投資家からの資金調達が可能になることも期待できます。
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